【医療費控除】

 【医療費控除】とは?
 突然のけがや長引く病気、通院や薬代などでかさむ医療費。医療費が家計に与える影響は決して小さくありません。そんなとき、税制の面から家計を支援するのが「医療費控除」という制度です。
この記事では、「医療費控除」とはどのような仕組みで、なぜ導入されたのか、どのように活用すれば節税につながるのかを詳しく解説します。医療費が多くかかった方や家族の医療費を支払った方は、ぜひ参考にしてください。

医療費控除の制度概要と背景

 医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、その超過分を所得から差し引くことができる制度です。これにより、所得税や住民税の負担が軽減されます。この制度が設けられた目的は、「医療費が家計に過度な負担とならないように配慮する」ことです。とくに、家族全体で支払った医療費が大きくなった年には、税制による救済措置として活用できます。

控除の対象となる医療費と控除額の計算方法

医療費控除の対象となる医療費には、以下のようなものがあります

  • 医師や歯科医師による診療・治療費
  • 通院時の公共交通機関の交通費(バス・電車など)
  • 薬局で購入した治療や予防に必要な医薬品
  • 入院費や手術費
  • 医療機関での検査費用

ただし、次のような費用は対象外です

  • 美容目的の整形手術
  • 予防目的の健康診断(異常が見つかって治療に至った場合は対象となることもあり)

医療費控除の対象かどうかを判断する上で重要なのは、その支出が「治療を目的としているかどうか」です。

よく話題になる例が「歯科矯正」

 歯列矯正は、見た目を整えるためだけの美容目的であれば、原則として医療費控除の対象にはなりません。しかし、咀嚼障害(噛み合わせの問題)や発音障害など、機能的な問題を改善するために行われる矯正治療であれば、「治療」と見なされ、控除対象になります。
この判断は、医師(歯科医師)の見解に左右される部分が大きく、診断書や治療計画書の内容が重要になります。実際の医療現場でも、「治療目的であることを記載してほしい」と相談すると、実情に応じて治療と判断してもらえるケースもあります。
もちろん、虚偽の申告は避けるべきですが、矯正を検討している方は、単なる見た目の改善か、健康上の理由があるかを、事前に確認しておくと良いでしょう。

控除額の計算式

(支払った医療費の合計額 - 保険金などで補てんされる金額 - 10万円(※))= 医療費控除額

※総所得金額が200万円未満の方は「所得金額の5%」が基準になります。

例えば、年間で医療費が40万円かかり、保険金で10万円補てんされた場合:

40万円 - 10万円(保険金)- 10万円(基準額)= 20万円が控除対象になります。

任意で加入している保険がなければ、支払った医療費 ー 10万円(※) = 医療費控除額  となります。

医療費控除の仕組みと申告方法

医療費控除は自動的に適用されるわけではありません。年末調整では対応しておらず、確定申告が必要です。

必要な書類

  • 医療費控除の明細書(領収書をもとに作成)
  • 医療費通知(健康保険組合などから送られる「医療費のお知らせ」)

なお、医療費通知を利用する場合は、明細の一部を簡略化できます。医療費の領収書自体は提出不要ですが、5年間の保存義務があります。

セルフメディケーション税制との違い

セルフメディケーション税制とは「予防」に着目した制度

 医療費控除と対をなす制度として「セルフメディケーション税制」があります。これは、病気の「治療」ではなく、「健康維持や予防」のために使ったお金を対象とした税制です。具体的には、市販薬の中でも厚生労働省が指定する「スイッチOTC医薬品(医療用から転用された医薬品)」を年間12,000円以上購入した場合に、その超過額(上限88,000円)を所得から控除できる仕組みです。この制度がつくられた背景には、「病気になる前に予防しよう」という国の方針があります。医療費控除が「治療費の一部を税制で支援する」のに対し、セルフメディケーション税制は「健康な状態を保つ努力にも支援を行う」点が特徴です。

健康を維持するために日頃から取り組んでいる人の方が、税制上も評価される――これはごく自然な考え方といえるでしょう。なお、こちらの制度を利用するためには、健康診断やがん検診、予防接種など、一定の「健康管理」を行っていることが条件となっています。

■ 医療費控除とセルフメディケーション税制の比較

項目医療費控除セルフメディケーション税制
対象となる支出診療・治療にかかった医療費
(病院、薬局、交通費など)
スイッチOTC医薬品の購入費用(市販薬の一部)
目的病気やけがの治療費の軽減健康維持・予防支出の支援
対象者の条件自己または生計を一にする親族のための支出健康診査・予防接種などを受けていること
控除額の算出式(医療費合計-補てん額-10万円※)(対象薬購入額-12,000円)※上限88,000円
上限額最大200万円最大88,000円
申告方法医療費控除の明細書を添付して確定申告セルフメディケーション税制の明細書を添付して確定申告
併用可否セルフメディケーション税制と併用不可医療費控除と併用不可
※総所得金額が200万円未満の方は「所得金額の5%」が基準になります。

■ 申告時の注意点(医療費控除・セルフメディケーション共通)

申告を行う際には、以下のようなミスや見落としがよくあります。正しい控除を受けるために、事前にチェックしましょう。

よくある申告ミス

  • 領収書を捨ててしまった
    医療費通知がない場合、領収書が唯一の証明手段になります。5年間の保存義務もあるため、捨てずに保管しましょう。
  • 交通費の記載漏れ
    通院のための電車・バス代は控除対象です。ただし、自家用車のガソリン代や駐車場代は対象外。区別が必要です。
  • 医療費の補てん分を差し引いていない
    生命保険から支給された入院給付金、高額療養費制度の支給金は、医療費から差し引く必要があります。
  • 家族分の医療費を個別に申告
    同一生計であれば、家族の医療費を合算して1人がまとめて申告するのが原則であり、控除効果も高くなります。
  • セルフメディケーション税制の対象薬を正確に把握していない
    レシートに「★」マークなどがある場合も多く、見逃さないように。購入店が発行する明細も保管しておきましょう。

まとめ

医療費控除は、医療費の負担が重くなった年に税制面で家計を助けてくれる大切な制度です。自己負担が大きかった年や、家族で通院や入院が重なった場合など、忘れずに確定申告で申告することで、所得税や住民税が軽減されます。

特に医療費が高額になった場合は、明細書をしっかり整理し、正確に申告しましょう。制度を正しく理解して、安心して医療を受けられる備えとして活用してみてください。

上部へスクロール