目次
障害者控除は、障害を持つ方やそのご家族の税負担を軽減するために設けられた、重要な税制優遇制度です。この制度を利用することで、所得税や個人住民税から一定額が控除され、結果として納める税金の額を抑えることができます。
近年、物価上昇が続く中で、納税者の負担を調整し、質の高い国民生活を実現するための税制改正が進められています。障害者控除も、障害を持つ方々が経済的な理由で就労を控える、いわゆる「年収の壁」問題への対策の一環として注目されています。
この記事では、障害者控除の基本的な仕組みから、対象となる方の範囲、具体的な控除額、そして確定申告や年末調整での申請方法、さらには人気のふるさと納税との併用に関する注意点まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。この記事を読めば、障害者控除のメリットを最大限に活用し、適切な税務申告を行うための知識が得られるでしょう。
障害者控除の基本:制度の目的と対象者
制度の目的と背景
障害者控除は、障害を持つ納税者本人や、生計を共にする配偶者、扶養親族がいる場合に、その経済的負担を軽減することを目的としています。この制度は、障害を持つ方々の社会参加を促進し、安定した生活を送るための基盤を支援する役割も担っています。
障害者控除の対象となる人
障害者控除は、納税者自身、同一生計配偶者、または扶養親族が「所得税法上の障害者」に該当する場合に適用されます。所得税法上の「障害者」とは、具体的に以下のような方が該当します。
- 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人。
- 児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医の判定により、知的障害者と判定された人。
- 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人。
- 身体障害者福祉法の規定により交付を受けた身体障害者手帳に、身体上の障害がある人として記載されている人。
- 戦傷病者特別援護法の規定により戦傷病者手帳の交付を受けている人。
- 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の規定により厚生労働大臣の認定を受けている人。
- その年の12月31日の現況で引き続き6か月以上にわたって身体の障害により寝たきりの状態で、複雑な介護を必要とする人。
- 満65歳以上で、上記1, 2, 4のいずれかに準ずるものとして市町村長等や福祉事務所長の認定を受けている人。
【誤解しやすい点】 介護保険の要介護認定を受けているだけでは、ただちに障害者控除の対象となるわけではありません。満65歳以上の方については、その障害の程度が知的障害者または身体障害者に準ずるものとして、市区町村長や福祉事務所長の認定が必要となります。不明な場合は、お住まいの市区町村に問い合わせましょう.
控除額と障害の区分を理解する
障害者控除の区分と控除額
障害者控除の控除額は、対象となる障害の程度や同居の有無によって、以下の3つの区分に分かれています。控除額は、該当者1人につき加算されます。
- 障害者
- 所得税:27万円
- 住民税:26万円
- 特別障害者
- 所得税:40万円
- 住民税:30万円
- 具体例としては、重度の知的障害者と判定された人、身体障害者手帳の障害の程度が1級または2級と記載されている人、精神障害者保健福祉手帳の障害等級が1級と記載されている人などが該当します。療育手帳の「A」判定も特別障害者に該当する場合が多いです。
- 同居特別障害者
- 所得税:75万円
- 住民税:53万円
- 「同居特別障害者」とは、特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族のうち、納税者自身、配偶者、その納税者と生計を一にするその他の親族のいずれかとの同居を常況としている人を指します。例えば、納税者が別居している両親を扶養しており、両親の一方が特別障害者に該当する場合でも、同居していれば同居特別障害者として控除が受けられます。
障害者控除の控除額一覧
区分 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
障害者 | 27万円 | 26万円 |
特別障害者 | 40万円 | 30万円 |
同居特別障害者 | 75万円 | 53万円 |
扶養親族の要件(2025年分(令和7年分)以降の所得要件の改正)
障害者控除の対象となる扶養親族には、いくつかの要件があります。
- 血族: 6親等以内の血族。
- 姻族: 3親等以内の姻族。
- 都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や、市町村長から養護を委託された老人。
- 納税者と生計を一にしていること。これは必ずしも同居している必要はなく、例えば単身赴任中の家族や、遠隔地に住む親族に生活費や学資金などを常に送金している場合も該当します。
- 青色申告事業者の事業専従者として給与を受け取っておらず、白色申告の事業専従者でもないこと。
【2025年分の所得税から適用される重要な変更点】 給与所得者の所得税における基礎控除額が、合計所得金額2,350万円以下の個人に対して10万円引き上げられ、48万円から58万円になります。これに伴い、障害者控除の対象となる扶養親族の合計所得金額要件も48万円から58万円に引き上げられます。 これにより、扶養親族の給与収入が103万円を超えても、123万円以下であれば引き続き扶養親族として障害者控除の対象となります(給与所得控除65万円+基礎控除58万円=123万円)。 また、障害者控除は扶養控除とは異なり、扶養親族の年齢に関わらず適用されます。16歳未満の子供でも対象となり、16歳以上の子供が障害者控除と扶養控除の両方の対象となる場合は、両方の控除を適用することができます。
※変更点についてはあくまで「所得税」の話です。住民税の基礎控除額が増える話は現在出ていないので、住民税の基礎控除額は変わらず43万円です。
※▼給与所得控除詳細についてはコチラの記事をご確認下さい▼
障害者控除の申請手続きと必要な書類
障害者控除の適用を受けるためには、原則として「年末調整」または「確定申告」のいずれかの方法で申告が必要です。
年末調整で申告する場合
給与所得者の場合、毎年秋ごろに勤務先から配布される「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」で申告を行います。 申告書の中央よりやや下にある「C 障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」欄に必要事項を記入します。具体的には、該当する障害者の区分(障害者、特別障害者、同居特別障害者)にチェックを入れ、扶養親族の場合は人数をカッコ内に記載します。 提出時には、障害者手帳の交付年月日や等級などの情報を正確に記載しましょう。会社によっては手帳のコピー提出を求められる場合もありますが、法令上は必須ではありません。
確定申告で申告する場合
以下のような場合は、確定申告で障害者控除を申告する必要があります。
- 年末調整で申告し忘れた場合。
- 自営業者など、そもそも年末調整の対象ではない場合。
- 年間の寄附先が6自治体以上のふるさと納税を行う場合など、他の理由で確定申告が必要な場合。
確定申告を行う際は、「確定申告書 第一表」と「確定申告書 第二表」に必要事項を記入し、所轄の税務署に提出します。
- 確定申告書 第一表: 「所得から差し引かれる金額」欄の「勤労学生、障害者控除」に、障害者控除の合計額を記入します。
- 確定申告書 第二表: 「配偶者や親族に関する事項」欄に、障害者控除の対象となる方の氏名、マイナンバー(個人番号)、続柄、生年月日などを詳しく記載し、該当する障害の区分に〇をつけます。
【必要書類】 原則として、障害者手帳や市区町村が発行する「障害者控除対象者認定書」など、障害者であることを証明する書類が必要です。給与所得者の場合は、勤務先から交付された源泉徴収票も用意しましょう.
申告を忘れてしまった場合の対処法
もし年末調整で障害者控除の申告を忘れてしまっても、心配はいりません。 まず、勤務先の年末調整の処理が間に合うかを確認し、再調整が可能であれば対応してもらいましょう。もし再調整が難しい場合でも、収入のあった年の翌年1月1日から5年間は、確定申告によって還付申告を行うことが可能です。この期間内であれば、過去の申告漏れについても税金の還付を受けることができます。
ふるさと納税と障害者控除の併用について
ふるさと納税と障害者控除は、目的や控除の仕組みが異なるため、完全に併用することが可能です。これにより、両制度のメリットを最大限に享受し、より効果的な節税効果が期待できます。
併用が可能な仕組み
- 障害者控除: 所得税や住民税を計算する元となる「所得金額」から一定額を差し引く「所得控除」です。
- ふるさと納税: 地方自治体への寄附金のうち2,000円を超える部分について、所得税の「還付」と住民税の「控除」という形で税額が軽減される「税額控除」です。
この二つの制度を併用する場合、控除の計算は段階的に行われます。まず、障害者控除を含む所得控除が適用されて課税所得が確定し、その後に算出された税額に対して、ふるさと納税による税額控除が適用される流れです。
併用のメリットと注意点
【メリット】 障害者控除で課税所得が減ることで、所得税や住民税の負担が軽減されます。その上でふるさと納税を利用することで、さらに税額控除の恩恵を受けることができます。
【注意点】
- ふるさと納税の控除上限額への影響: 障害者控除の適用によって課税所得が減少すると、それに伴ってふるさと納税で控除できる上限額もわずかに減少する可能性があります。しかし、これは決してデメリットではなく、全体的な税負担の軽減という観点からは、両制度を併用する方が有利となります。
- 確定申告の必要性: ふるさと納税で「ワンストップ特例制度」を利用している場合でも、障害者控除のために確定申告を行う場合は、そのワンストップ特例の申請は無効になります。この場合、確定申告書にはすべてのふるさと納税の寄附内容を記載し、寄附金受領証明書を添付して申告する必要があります。
- 書類の保管: ふるさと納税の「寄附金受領証明書」は、確定申告で必要となる重要な書類です。税務調査の対象となる可能性もあるため、最低5年間は大切に保管しておくことを推奨します。
障害を持つ人が受けられるその他の税制優遇
障害者控除以外にも、障害を持つ方々が利用できるさまざまな税制優遇制度があります。これらの制度を知っておくことで、さらに経済的負担を軽減できる可能性があります。
- 特定障害者に対する贈与税の非課税
- 特定の障害を持つ方へ贈与が行われた場合、一定の要件を満たせば贈与税が非課税となる制度です。
- 心身障害者扶養共済制度に基づく給付金の非課税
- 障害者を扶養する保護者が加入する共済制度からの給付金は、所得税が非課税となります。
- 少額貯蓄の利子等の非課税(マル優・特別マル優)
- 身体障害者手帳の交付を受けているなど、特定の要件を満たす障害者の方は、預貯金の利子や国債・地方債の利子が非課税となる制度を利用できます。
- 障害を支給事由とする年金(障害年金等)の非課税所得
- 障害年金や遺族年金など、障害を支給事由とする年金は、所得税が非課税とされています。
まとめ
障害者控除は、障害を持つ納税者本人やその家族の経済的な負担を軽減するために非常に重要な所得控除制度です。控除額は障害の程度や同居の有無によって異なり、2025年分(令和7年分)からは扶養親族の所得要件が緩和されるなど、より利用しやすくなります。
この控除を適用するためには、給与所得者の場合は年末調整で、それ以外の方や年末調整を忘れてしまった場合は確定申告で手続きを行います。もし申告を忘れてしまっても、最長5年間は還付申告が可能です。
また、ふるさと納税との併用も可能であり、両制度を適切に組み合わせることで、さらに大きな税負担の軽減効果を得ることができます。ただし、確定申告が必要になる場合があることや、ふるさと納税の控除上限額に影響がある可能性には注意が必要です。制度を正しく理解し、ご自身の状況に合わせてこれらの税制優遇を最大限に活用することが、家計の負担を軽減する上で非常に重要です。不明な点があれば、国税庁の電話相談センターや税務署の相談窓口、または税理士などの専門家に相談することをお勧めします。