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老後の資産形成を考える際、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は税制優遇の大きさが魅力的な制度です。しかし、「一体いくらまで積み立てられるの?」「自分の場合はどうなるの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。特に、2024年12月には一部の対象者の拠出限度額が見直され、2025年度の税制改正大綱でもさらなる上限額引き上げの方針が示されています。
この記事では、iDeCoの掛金の上限額について、ご自身の状況に合わせた具体的な金額、そして2024年12月の制度改正の詳しい内容まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。この記事を読めば、ご自身に最適なiDeCoの掛金設定や、今後の制度変更への理解が深まるでしょう。
iDeCoとは?制度の目的と基礎知識
iDeCoは、公的年金に加えて自身で掛金を拠出し、自ら運用して老後資金を準備する私的年金制度です。個人の自助努力を目的としており、原則として60歳以降に給付を受け取ることができます。
iDeCoを利用する大きなメリットは、以下の3つの税制優遇が受けられる点です。
- 掛金が全額所得控除の対象:iDeCoで支払った掛金は全額が所得控除の対象となり、「小規模企業共済等掛金控除」として所得税や住民税の負担が軽減されます。課税所得が減るため、年収が高い人ほど節税効果が高くなる傾向にあります。
- 運用益が非課税:通常、金融商品の運用益には20.315%の税金がかかりますが、iDeCoで得た運用益は全額非課税で再投資されます。
- 受取時にも税制優遇:積み立てた資金を一時金として受け取る場合は「退職所得控除」、年金として分割で受け取る場合は「公的年金等控除」が適用され、税制優遇が受けられます。
ただし、iDeCoは老後資金の準備を目的としているため、原則として60歳になるまで掛金を引き出すことはできません。この点は、掛金額を設定する上で重要な注意点となります。
iDeCoの掛金上限額は職業や加入状況で異なる
iDeCoの掛金の下限額は月額5,000円です。そこから1,000円単位で増額できます。掛金の上限額は、国民年金の加入状況や企業年金の有無によって異なります。
主な加入者区分ごとの掛金上限額は以下の通りです(2024年12月以降の制度内容を含む)。
- 第1号被保険者(自営業者など):月額6.8万円(年額81.6万円)。会社員のような厚生年金や退職金がないため、老後資金対策として上限額が高く設定されています。
- 第2号被保険者(会社員・公務員など):
- 企業年金に加入していない会社員:月額2.3万円(年額27.6万円)。
- 企業型DCのみに加入している会社員:月額2.0万円(年額24万円)。
- 確定給付企業年金(DB等)の他制度に加入している会社員・公務員:月額1.2万円から最大2.0万円(年額24万円)に変わります。これまでの上限は1.2万円でした。
- 第3号被保険者(専業主婦・主夫など):月額2.3万円(年額27.6万円)。
2025年度の税制改正大綱におけるさらなる変更方針
なお、2025年度の税制改正大綱では、iDeCoの掛金上限額がさらに引き上げられる方針が示されています。
- 企業年金がない第2号被保険者のiDeCo掛金上限額は、月額6.2万円に引き上げられる見込みです。
- 企業年金がある場合は、iDeCoと企業年金を合わせた掛金上限が月額6.2万円に引き上げられ、iDeCo単体の上限額(=2万円)も撤廃される方針です。
ただし、これらの制度変更の施行時期や手続き方法などの詳細はまだ発表されていないため、今後の情報に注意が必要です。
国民年金の加入状況 | 具体例 | 現行制度 (月額) | 2024年12月以降の制度 (月額) | 2025年度税制改正大綱による見込み (月額) (※見込み) |
第1号被保険者 | 自営業者、フリーランス、学生など | 6.8万円 | 6.8万円 | 7.5万円 |
第2号被保険者 | 企業年金等に加入していない会社員 | 2.3万円 | 2.3万円 | 6.2万円 |
企業型確定拠出年金 (企業型DC) のみに加入している会社員 | 2.0万円 | 2.0万円 | 企業年金との合計で6.2万円 (iDeCo単体の上限2万円は撤廃される方針) | |
確定給付企業年金 (DB等) に加入している会社員 | 1.2万円 | 最大2.0万円 (※1) | 企業年金との合計で6.2万円 (iDeCo単体の上限2万円は撤廃される方針) | |
公務員 | 1.2万円 | 最大2.0万円 (※1) | 5.4万円 | |
第3号被保険者 | 専業主婦(夫)など | 2.3万円 | 2.3万円 | 2.3万円 (変更なし) |
任意加入被保険者 | 60歳以降も国民年金に加入している方など | 6.8万円 | 6.8万円 | (第1号被保険者と同様に7.5万円に見込みと推測) |
※見込みの金額は、2025年度の税制改正大綱に示された方針であり、今後の法改正によって詳細が変更される可能性があります
2024年12月の制度改正で何が変わる?
2024年12月(2025年1月引落分)から、確定給付企業年金(DB)などの他制度に加入している方(公務員を含む)のiDeCo掛金拠出限度額が、月額1.2万円から最大2万円に引き上げられます。これは、DB等の掛金相当額の評価方法を見直し、拠出限度額の公平性を図ることが目的とされています。
掛金上限額の具体的な計算方法と誤解しやすい点
改正後のiDeCoの掛金拠出限度額は、「月額55,000円-(各月の企業型DCの事業主掛金額+DB等の他制度掛金相当額)」で計算され、その上限が2万円となります。
ここで注意すべきは、「最大2万円」であって、必ずしも2万円になるわけではない点です。
- 例えば、企業型DCとDB等の他制度に加入していて、それぞれの掛金を合算した額が月4万円の場合、iDeCoの拠出限度額は「55,000円-40,000円=15,000円」となり、上限は15,000円となります。
- ご自身の正確な拠出限度額は、各月の企業型DCの事業主掛金額やDB等の他制度掛金相当額の評価額によって異なるため、必ずご自身で確認する必要があります。不明な場合は、勤務先の担当部署やiDeCoに加入中の金融機関(運営管理機関)に確認しましょう。
企業型DCとの併用と掛金の調整
2022年10月の制度改正により、原則として誰でも企業型DCとiDeCoを併用できるようになりました。
併用のメリットとデメリット
- メリット:
- 拠出限度額の有効活用:企業型DCの掛金だけでは上限まで使い切れない場合でも、iDeCoを併用することでより多くの金額を積み立てられます。
- 運用商品の選択肢が広がる:企業型DCでは会社が指定する金融機関の商品しか選べませんが、iDeCoは自分で金融機関を選べるため、幅広い商品から運用したいものを見つけられます。
- デメリット:
- iDeCoの口座管理手数料が自己負担となる:企業型DCにかかる手数料は会社が負担しますが、iDeCoは個人で運用するため、口座管理手数料などが自己負担となります。
マッチング拠出との関係
企業型DCのある会社では、自己負担で掛金を上乗せする方法として、iDeCoに加入するか、企業型DCのマッチング拠出を利用するかを選択できます。iDeCoとマッチング拠出はどちらか一方しか選べません。
どちらが得かは状況によります。
- 企業型DCで会社に負担してもらえる掛金が少ない場合は、マッチング拠出(事業主掛金を超える拠出額を設定できない)よりもiDeCoを選ぶ方が、より多くの掛金を積み立てられる可能性があります。また、iDeCoの方が金融商品の種類が豊富な傾向があるため、運用商品の選択肢を増やしたい場合もiDeCoとの併用が有効です。
- 手間をかけずに資産運用したい場合は、iDeCoの専用口座開設や口座管理手数料(自己負担)が不要なマッチング拠出が優先されるでしょう。
掛金合計額が上限を超えた場合
iDeCoと企業型DCの掛金合計額が合算の上限額(原則月額5.5万円)を超える場合、iDeCoの掛金額が自動的に減額されます。自動減額の結果、iDeCoの掛金拠出可能額が5,000円未満となる場合は、掛金が停止されることもあるため注意が必要です。
掛金額変更の手続きと注意点
今回の拠出限度額引き上げに伴い、iDeCoの掛金額を変更したい場合は手続きが必要です。
事前受付の対象者と期間
2024年12月1日施行の制度改正により、iDeCo掛金の拠出限度額が月額1.2万円から2万円に引き上げられる第2号被保険者(DB等の他制度に加入している方、公務員を含む)が主な対象です。
事前受付の対象となる方は以下の条件を満たす必要があります:
- 2024年12月分(2025年1月引落)掛金から変更を希望する方。
- 現在の掛金納付方法が毎月定額の方。
注意点:現在「毎月定額」以外で掛金を納付している方(年単位拠出など)は、毎月定額拠出への変更手続きが必要であり、手続きを行わないと2025年1月引落以降、iDeCo掛金が拠出停止となるため注意が必要です。
事前受付期間は、2024年9月2日(月)から10月31日(木)まで(各運営管理機関必着)とされています。ただし、運営管理機関によっては異なる期間を設定している場合があるため、ご加入の運営管理機関に確認が必要です。
手続き方法と相談先
掛金額の変更を希望する方は、ご加入の運営管理機関に問い合わせて手続き方法を確認してください。国民年金基金連合会のコールセンターでも問い合わせが可能です。
掛金額を決定する際のその他の注意点
- 原則60歳まで資産を引き出せない:iDeCoは老後資金のための制度であるため、原則60歳になるまで資金を引き出せません。掛金額は、教育費や住宅ローンなど、将来のライフイベントも考慮し、無理のない範囲で設定することが大切です。
- 手数料の負担:iDeCoでは、加入・移換時手数料、口座管理手数料、運営管理機関手数料、信託報酬などの各種手数料が自己負担となります。掛金額が少ないと、これらの手数料が資産形成に影響を与える可能性があるため、無料の運営管理機関を選ぶなどの検討も有効です。
- 掛金の休止・再開の柔軟性:掛金の拠出を一時的に休止することも可能です。休止中も口座管理手数料はかかりますが、生活状況が変化して余裕ができた際に再開することも可能です。
まとめ
2024年12月からは、DB等の他制度に加入している会社員や公務員のiDeCo拠出限度額が月額1.2万円から最大2万円に引き上げられます。これは、iDeCoの最大の魅力である税制優遇を活用し、より効率的に老後資金を準備するための大きな機会となります。
しかし、上限額は「最大」であり、ご自身の企業年金等の状況によっては2万円にならないケースがあること、そして掛金額の変更には事前手続きが必要であること に注意が必要です。また、iDeCoは原則として60歳まで資産を引き出せないため、ご自身のライフプランや家計の状況を踏まえ、無理のない範囲で掛金額を設定することが重要です。
iDeCoを最大限に活用するために、ご自身の拠出限度額を正確に把握し、必要な手続きを早めに進めましょう。そして、拠出額は定期的に見直し、必要に応じてNISAなど他の資産運用方法と組み合わせることも検討してみてください。