【寄附金控除】

 寄付は、社会貢献につながる素晴らしい行為です。実は、寄付をすることには税金が安くなる「寄付金控除」というメリットもあります。しかし、「仕組みが複雑そう」「どうやって手続きすればいいの?」と感じる方も多いのではないでしょうか。 この記事では、寄付金控除の基本的な仕組みから、対象となる寄付先、具体的な計算方法、そして手続きの注意点まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。この記事を読めば、賢く寄付をして社会貢献と節税を両立させる方法が理解できるでしょう。

寄付金控除の目的と基本的な仕組み

寄付金控除とは?社会貢献と税制優遇の背景

 寄付金控除は、納税者が国や地方公共団体、特定の公益法人などに「特定寄附金」を支出した場合に、所得控除を受けられる制度です。これは、寄付を通じて社会貢献を奨励し、税負担を軽減するためのものです。 かつては所得控除が主流でしたが、2011年の税制改正により、納税者が所得控除と税額控除のどちらかを選択できるようになりました。これは、少額の寄付もしやすくしつつ、高額な寄付をする層にもメリットを維持させることで、より一層の寄付を促す目的があったといえます。日本における寄付金控除の制度は、欧米諸国と比較しても充実してきています。

2種類の控除方式:所得控除と税額控除

寄付金控除には、「所得控除方式」と「税額控除方式」の2つの方法があります。

  • 所得控除方式:寄付金額のうち一定額を課税所得から差し引く仕組みです。課税所得が減ることで、結果的に所得税や住民税の額も減少します。この方式は、課税所得が高いほど適用される税率も高くなるため、高所得者にとって特に効果的な節税方法です。
  • 税額控除方式:算出された所得税や住民税の金額から直接一定額を差し引く方法です。課税所得ではなく最終的な税額に直接作用するため、一般的に所得控除方式よりも大きな節税効果を得られることが多いです。所得に関わらず節税効果を実感しやすいため、高所得者以外の方にとっては税額控除の方が有利になるケースが多いとされています。

どちらの方式が適用されるかは寄付先の団体や寄付の種類によって異なりますが、納税者自身が有利な方を選択できる場合があります。ただし、一度選択した控除方式は、その年の修正申告や更正の請求で変更することはできないため、注意が必要です。

寄付金控除の対象となる「特定寄附金」の範囲

対象となる主な団体

寄付金控除の対象となる「特定寄附金」は、以下のいずれかに該当するものが一般的です。

  • 国や地方公共団体への寄付金:ふるさと納税もこれに該当します。
  • 公益社団法人、公益財団法人など:広く一般に募集され、教育・科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献など公益の増進に寄与するための緊急を要する支出に充てられることが確実であると認められ、財務大臣が指定したもの。
  • 特定の公益増進法人への寄付金:独立行政法人、私立学校法人、社会福祉法人、日本赤十字社など、教育・科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献など公益の増進に著しく寄与すると認められる法人への寄付で、その法人の主たる目的である業務に関連するもの。
  • 認定NPO法人等への寄付金:所轄庁の認定を受けた認定NPO法人(特例認定NPO法人を含む)に対する、特定非営利活動に係る事業に関する寄付です。認定NPO法人等の一覧は内閣府のホームページで確認できます。
  • 政治活動に関する寄付金:政党や政治資金団体などに対する寄付で、一定の要件を満たすもの(寄付をした人に特別の利益が及ぶと認められるものや政治資金規正法に違反するものを除く)。
  • 特定の公益信託への寄付金:主務大臣の証明を受けた、教育・科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献など公益の増進に著しく寄与すると認められる一定の公益信託の信託財産とするための金銭。
  • 特定新規中小会社が発行する株式の取得費用の一部(いわゆるエンジェル税制)。
  • 新型コロナウイルス感染症等の影響により中止等した文化芸術・スポーツイベントの主催者に対して払戻請求権を放棄した場合の寄付金(指定期限あり)。

控除対象外となるケース

寄付金控除の対象とならない寄付金もあるため注意が必要です。

  • 学校の入学に関して行う寄付
  • 寄付をした人に特別の利益が及ぶと認められるもの(例:寄付によって特定の設備を専属的に利用できる場合など)。
  • 政治資金規正法に違反するもの
  • 個人への寄付や、リターン(返礼品)を受け取る購入型クラウドファンディング。寄付型クラウドファンディングであっても、支援先が認定NPO法人など控除対象となる法人でなければ適用されません。

寄付金控除の計算方法と節税効果の具体例

計算式の基本

寄付金控除の金額は、以下の(1)または(2)のいずれか低い金額から2,000円を差し引いた額となります。

  1. その年に支出した特定寄附金の合計額。
  2. その年の総所得金額等の40パーセント相当額。

例えば、年間10万円の寄付をした場合、控除の対象となるのは「10万円 – 2,000円 = 9万8,000円」となります。

所得税と住民税における節税効果

  • 所得税:上記の控除額を課税所得から差し引き、所得税率を適用して節税額が決まります。年収や課税所得が高い人ほど、適用される所得税率も高いため、同じ寄付額でも節税効果が大きくなります。
    • 具体例:年収1,000万円(課税所得約600万円強、所得税率20%)の人が10万円寄付した場合、所得控除による節税効果は約1万9,600円(9万8,000円 × 20%)になります。一方、年収420万円(課税所得約195万円、所得税率5%)の人では、約4,900円(9万8,000円 × 5%)となります。
  • 住民税:住民税の寄付金控除は「基本控除」と「特例控除」の合計で計算されます。
    • 基本控除: (寄付金額 − 2,000円)× 10%
    • 特例控除: (寄付金額 − 2,000円)×(100%-10%(基本控除額) -所得税率) ※ふるさと納税にのみ適用。 住民税の特例控除は所得税の限界税率に応じて控除率が変動し、上限は調整控除後の個人住民税所得割額の20%です。

法人税における寄付金控除

企業が行う寄付は、一定の条件を満たすことで「損金算入」が可能です。損金算入とは、会計上は費用と認識されない支出を税務上の損金として計上することを意味し、これにより、法人税の課税所得を減少させ、結果的に法人税額を軽減する効果が期待できます。国や地方公共団体への寄付は全額損金算入できる場合が多いです。

寄付金控除を受けるための手続きと必要書類

確定申告が原則

寄付金控除を受けるためには、原則として「確定申告」が必要です。会社員の場合、年末調整では寄付金控除の手続きは行えないため、自分で確定申告を行う必要があります。 確定申告書には寄付金控除に関する事項を記載し、必要な書類(電磁的記録印刷書面を含む)を添付するか提示して、所轄の税務署に提出します。申告期限は通常3月15日までです。 インターネットで確定申告書を作成できる「国税庁 確定申告書等作成コーナー」の利用が便利です。e-Tax(電子申告)を利用すれば、一部の書類は入力情報で代替可能となり、マイナンバーカードを読み取ることで手続きを簡素化できます。e-Taxで申告する場合でも、領収書は5年間保存が求められます。

必要な書類の種類と取得方法

共通して必要な書類は、寄付先から交付された**「寄付金の受領証(領収書)」**です。 その他、寄付の種類に応じて以下の書類が必要になる場合があります。

  • 特定公益増進法人である旨の証明書の写し。
  • 特定公益信託である旨の認定書の写し。
  • 選挙管理委員会等の確認印のある「寄付金(税額)控除のための書類」(政治活動に関する寄付の場合)。
  • 特定新規中小会社が発行した株式の取得に要した金額の寄付金控除額の計算明細書や確認書など(エンジェル税制の場合)。

これらの書類は寄付先の団体から入手できますので、必ず大切に保管しておきましょう。

ふるさと納税の「ワンストップ特例制度」との違い

ふるさと納税には、確定申告が不要な給与所得者向けに「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が利用できます。この制度を利用することで、住民税の控除を受けることが可能です。 ただし、適用には以下の条件があります。

  • ふるさと納税先が5団体以内であること。
  • 各寄付先自治体にワンストップ特例の申請書を期限内に提出すること。

もし医療費控除などのために確定申告を行う場合や、寄付先が6団体以上になる場合は、ワンストップ特例制度は適用されず、全てのふるさと納税分を含めて確定申告が必要になりますので注意が必要です。 また、東京大学への寄付のように、特定の公益増進法人への寄付は税法上の優遇措置が受けられますが、これはふるさと納税の限度額に影響を与えません。ふるさと納税の限度額は、寄付金控除を引く前の住民税所得割額の20%が上限とされているためです。

寄付金控除を活用する上での注意点

控除されても自己負担は発生する

寄付金控除は税負担を軽減する制度ですが、「寄付額の全額が戻ってくるわけではない」という点に留意しましょう。控除を受けたとしても、寄付額に応じた実質的な自己負担が発生します。例えば、ふるさと納税では実質2,000円の自己負担が発生しますが、それ以外の寄付金控除では控除率が異なるため、より大きな自己負担が生じる可能性があります。

控除限度額の上限がある

寄付金控除には所得に応じた上限額が設定されています。

  • 所得控除の上限は、その年の総所得金額等の40%です。
  • 税額控除の上限は、所得税額の25%です。

この上限を超えた金額は控除の対象外となり、自己負担となりますので、高額な寄付を検討している場合は、事前に控除対象額を把握しておくことが重要です。

寄付は2,001円以上からが対象

 寄付金控除を受けるためには、1年間の合計寄付金額が2,001円を超える必要があります。控除額は「寄付金の合計額から2,000円を差し引いた金額」で計算されるため、2,000円以下の寄付には控除が適用されません。

寄付本来の意義を忘れずに

 寄付は単なる節税手段ではなく、社会に貢献する意義ある行動です。控除のメリットだけでなく、自分が大切にしている価値観や応援したい分野(例えば、子供の教育支援、環境保護、災害復興支援など)に合致する団体を選ぶことが大切です。団体の信頼性や透明性も確認しつつ、社会貢献という本来の目的を忘れずに寄付に取り組みましょう。

まとめ:寄付金控除を活用して社会貢献と節税を両立しよう

 寄付金控除は、国や地方公共団体、特定の公益法人などへの寄付を通じて、所得税や住民税の負担を軽減できる有効な制度です。所得控除と税額控除の2つの方式があり、ご自身の所得状況や寄付先に合わせて有利な方を選択できる場合があります。 控除を受けるためには原則として確定申告が必要となり、寄付金の受領証などの書類を準備する必要があります。ふるさと納税のように、一部確定申告が不要なワンストップ特例制度もありますが、条件を確認しましょう。 寄付金控除は「節税効果があっても手元資金は減少する」という自己負担が発生する点や、控除額には上限がある点に注意が必要です。単なる節税だけでなく、社会貢献という本来の目的を忘れずに、自分らしい方法で賢く寄付金控除を活用しましょう。

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