ひとり親世帯や配偶者を亡くされた方々の生活を支援するために、所得税において「ひとり親控除」および「寡婦控除」という制度が設けられています。これらは、納税者の家庭の状況を考慮して税負担を軽減する目的で設計されています。
特に子育て中のひとり親にとっては、経済的負担が大きくなりがちです。国としてもその状況を支援するため、控除額の設定や所得条件が定められています。この記事では、制度の背景や仕組み、該当するかの判断基準、令和7年度税制改正との関係性まで、専門用語の補足を交えて詳しく解説します。
制度の概要と目的
区分 | 控除額 | 主な対象要件 |
---|---|---|
ひとり親控除 | 35万円 | 婚姻をしていない、または配偶者の生死が不明で、生計を一にする子がいる、所得500万円以下 |
寡婦控除 | 27万円 | 離婚・死別後に婚姻しておらず、一定の条件を満たす女性、所得500万円以下 |
※「生計を一にする」とは、同じ家計で生活している状態を意味し、生活費の共有があるかが判断基準です。
制度の趣旨
これらの控除は、家庭の経済的負担を軽減し、子育てや生活再建に集中できる環境を整えるために設けられました。特に働きながら子育てをする世帯では、所得税の負担が大きくのしかかる場合があり、その負担を調整する役割を担っています。
ひとり親控除の詳細
対象者の条件
以下すべてに該当する方が対象です
- 婚姻をしていない、または配偶者の生死が不明。
- 生計を一にする子がいる(子の所得が48万円以下で、他者の扶養親族や同一生計配偶者でない)。
- 合計所得金額が500万円以下。
控除内容
- 所得控除額:35万円
- 所得税率に応じて、実際の税額軽減効果は異なります(例:税率10%であれば3.5万円軽減)
※この控除はあくまで「所得税」のみに適用されます。住民税には別途、住民税非課税の判定基準が存在しており、必ずしも控除の適用=非課税ではありません。
寡婦控除の詳細
対象者の条件
次のいずれかに該当する女性で、かつ合計所得金額が500万円以下の方:
- 離婚後、婚姻しておらず、扶養親族がいる。
- 死別後、婚姻していない、または配偶者の生死が不明。
控除内容
- 所得控除額:27万円
- 税率10%であれば約2.7万円の軽減効果。
※なお、上記に該当し、かつ「ひとり親控除」に該当する場合は、ひとり親控除の適用を優先します。 ※こちらも所得税に関する控除であり、住民税の負担には直接的な影響はありません。
✅ ひとり親控除と寡婦控除の主な違い
「ひとり親控除」と「寡婦控除」は、似ているようで実は対象者の性別・扶養関係・婚姻歴などに違いがあります。ここでは違いを明確にし、実例も交えてわかりやすく説明します。
項目 | ひとり親控除 | 寡婦控除 |
---|---|---|
控除額 | 35万円 | 27万円 |
性別制限 | なし(男女とも可) | 女性のみ |
子の扶養 | 必須 | 条件により不要な場合もあり |
所得制限 | 500万円以下 | 500万円以下 |
婚姻歴 | 未婚、離婚、死別でも可 | 離婚・死別限定 |
子の所得要件 | 58万円以下(2025年改正後) | 特になし(扶養親族要件に含まれる) |
🎓 ポイント解説
● 性別による違い
- ひとり親控除:男女問わず適用(令和2年改正により男性にも適用可)
- 寡婦控除:女性のみが対象(法律上)
● 子どもの有無と所得制限
- ひとり親控除:生計を一にする子が必要で、その子の所得が48万円以下
- 寡婦控除:
- 離婚:扶養親族が必要
- 死別:扶養親族がいなくてもよい
● 控除額の違い
- ひとり親控除のほうが金額が大きい(35万円)ため、両方該当する場合はひとり親控除が優先されます。
🧾 例で比較
【例1】ひとり親控除に該当するケース
- 35歳の母親(未婚)、小学3年生の子どもと同居、収入400万円、子の所得なし
→ ひとり親控除の対象(婚姻しておらず、子あり、所得条件クリア)
【例2】寡婦控除に該当するケース
- 45歳の女性、夫と死別後再婚せず1人暮らし、収入480万円、子どもなし
→ 寡婦控除の対象(死別、扶養親族なしでもOK、所得条件クリア)
【例3】対象外になるケース
- 38歳の男性、離婚後子どもと別居中(子の扶養なし)、収入450万円
→ ひとり親控除も寡婦控除も対象外(子を扶養していない)
専門用語の補足
- 所得控除:課税対象となる所得金額を減らすことで、最終的な税額を軽減する仕組み。
- 合計所得金額:給与所得や事業所得などすべての所得を合計し、損益通算などを行った後の金額。
- 住民税:都道府県・市区町村が課税する地方税であり、所得税とは異なる基準で計算されます。
令和7年度税制改正との関係
令和7年度税制改正では、扶養控除等の対象となる扶養親族の所得要件が「48万円以下」から「58万円以下」に引き上げられました。 これにより、ひとり親控除の対象となる「生計を一にする子」についても、所得が58万円以下であれば対象となる可能性があります。ただし、これは現時点では法令に基づく運用方針の変更予定を踏まえたものであり、最終的な適用には今後の通達等を確認する必要があります。あくまで”対象が広がる可能性がある”という観点で捉えるべきです。
シミュレーションツール
控除対象となるかを判断するために、以下のツールを使って調べましょう。
【ひとり親控除】シミュレーションツール
※子の所得制限は現状の48万で設定してあります。今後は税制改正により58万となる可能性があります。
【寡婦控除】シミュレーションツール
※所得の出し方が分からない方は、コチラの記事にてご確認ください。
まとめ
ひとり親控除・寡婦控除は、家庭環境によって税負担を調整する重要な制度です。ただし、所得税における控除であり、住民税の非課税とは異なるため、両方の制度を正しく理解し活用することが大切です。自分が該当するかどうか、また、どの程度の税軽減が見込めるのかを正しく把握し、確定申告や年末調整で適切に申告しましょう。