離婚や死別、未婚などによって、子どもをひとりで育てる親には、国や自治体からの支援制度があります。 でも実は、「自分が対象かどうか分からない…」という理由で申請していない人も少なくありません。 この記事では、「ひとり親」とは誰のことなのか? どんな支援制度があるのか? まずは全体像をざっくりと把握することから始めましょう。
ひとり親とは?どこまでが対象になる?
ひとり親世帯は、主に母子家庭(シングルマザー)と父子家庭(シングルファーザー)に分けられます。厚生労働省の2016年の調査によると、母子世帯が123.2万世帯であるのに対し、父子世帯は18.7万世帯と、母子世帯が約6倍多くなっています。
支援の背景 ー なぜ支援があるのか?
日本では、シングルマザーの貧困率が高いと言われるなど、ひとり親世帯は総じて貧困に陥りやすい傾向があります。その要因は一つではなく、複数の要素が絡み合っています。主な理由としては、収入が少ないこと、子育てと仕事の両立が難しいこと、給与や待遇面が充実していないこと、そして養育費が受け取れないことなどが挙げられます。また、社会からのひとり親世帯に対する偏見も、貧困をさらに悪化させる要因となることがあります。
こうした状況に対し、国はひとり親家庭への支援を強化しています。2023年4月に発足したこども家庭庁の設立目的の一つは、これまで厚生労働省、文部科学省など複数の省庁に分かれていたひとり親世帯向け支援の窓口を一本化し、複雑な手続きや担当窓口の混乱を解消することです。これにより、ひとり親世帯にとってより分かりやすく使いやすい支援体制が構築されています。
2022年12月に策定された**「こども大綱」**は、2050年までの子供を取り巻く社会のあり方を示した指針であり、ひとり親家庭についても、自立と社会参加の促進、子育て支援の充実が重点課題として掲げられています。この大綱に基づき、経済支援、教育支援、医療支援の拡充、ワークライフバランスの推進、地域子育て支援の強化が推進されています。現代社会においては、結婚や家族のあり方が多様化しており、こうした変化に対応した制度設計や政策が求められています。
まず知っておきたい支援制度の種類(ざっくり紹介)
ひとり親世帯が受けられる支援制度は多岐にわたります。主なものをいくつかご紹介します。
1. こども家庭庁が提供する支援
- 子育て支援: 子育てに関する相談や情報提供、地域の子育て支援センターとの連携。
- 教育支援: 教育費支援、学習支援、進路相談。幼児教育の無償化、大学進学支援の強化も推進されています。
- 経済支援:
- 児童扶養手当: ひとり親家庭の生活の安定と自立を支援するための手当です。
- 生活保護。
- ひとり親家庭等就労・自立支援事業。
- ひとり親家庭高等職業訓練促進資金貸付事業: ひとり親の親が高等職業訓練を受けることを支援し、入学時に50万円、資格取得後に20万円が貸し付けられます。就職後には返還が免除される条件もあります。
- 住宅支援: 児童扶養手当を受給しているひとり親家庭には、家賃の実費を最大12か月間、月額4万円を上限として支援が行われます。
- 医療支援: 乳幼児医療費助成制度、ひとり親家庭等医療費助成制度。対象拡大も推進されています。
- その他: 離婚・DV相談、住居支援、就労支援などがあります。
2. 厚生労働省が提供する就労支援
- ハローワークにおける児童扶養手当受給者等に対する就労支援
児童扶養手当受給者の自立のための就労を支援します。ハローワークの窓口で、求人情報の検索、仕事探しの相談、職業紹介、履歴書作成、面接アドバイス、就職後のフォローアップが無料で提供されます。 - トライアル雇用助成金
母子家庭の母親や育児で仕事に長いブランクがある方など、就職に不安を感じている人が、仕事や企業についてより深く理解するために最大3か月の試行雇用(トライアル雇用)を提供します。トライアル雇用中は労働基準法が適用され、賃金が支払われます。
3. 主要な手当・制度
- 児童扶養手当:
- 公的年金を受給している場合でも、年金額が児童扶養手当額より低い場合は、その差額分の手当を受給できます(2014年12月以降)。
- 支払回数は2019年11月から年3回から年6回に変更されました。
- 支給要件には、配偶者からの暴力(DV)で「裁判所からの保護命令」が出された場合も追加されています(2012年8月以降)。
- 第2子以降の加算額も変更されています(2016年8月以降)。
- 児童手当。
- 医療費助成制度。
- 母子家庭・父子家庭の住宅手当。
4. 養育費の確保支援
多くの自治体では、養育費の取り決めや履行確保を支援するための取り組みを行っています。これには、弁護士による無料相談、公正証書作成費用や養育費保証契約の初回保証料、未払い養育費の強制執行にかかる費用などの補助金支給が含まれます。例えば、秋田県では公正証書による債務名義作成、養育費請求調停申立て、未払い養育費に係る強制執行申立て、保証会社との養育費保証契約締結にかかる費用に対し、それぞれ上限を設けて給付金を支給しています。
※公正証書とは?
裁判所を通さずに、強制執行の効力がある書類を公証人に作成してもらう制度。養育費などの取り決めを記録しておくと、未払い時に裁判なしで差し押さえができる。
制度を使うには?大切なのは「申請主義」
国や自治体が提供する支援制度は、自ら申請しなければ受給できません。これは**「申請主義」**と呼ばれ、制度が利用者の元へ自動的に届けられるわけではないことを意味します。過去には、年金分割の制度を知っていても、離婚後の精神的・時間的余裕がなく手続きを断念したケースのように、制度の存在を知っていても申請までたどり着けないということもあります。また、自治体によっては、支援制度の周知不足が申請件数の少なさにつながっていると認識し、改善策を講じている例もあります。
もし、これまでに利用できるはずの支援制度を知らずに申請していなかった場合、本来受け取れたはずの支援を受け損なっている可能性があります。支援制度は、ひとり親家庭の生活の安定と子どもの健全な成長を支えるために設けられています。まずは、ご自身が受けられる支援の全体像を把握し、積極的に情報収集を行い、必要な手続きを進めることが重要です。