トランプ大統領の政策が市場を動かす:薬価引き下げ、円安、米株急騰の背景

 2025年5月12日、アメリカのドナルド・トランプ大統領が処方薬価格の大幅引き下げを目的とした大統領令に署名し、再び世界経済の注目を集めました。今回の発表は、トランプ氏が前任期中から主張していた「最恵国待遇(Most Favored Nation)」価格制度の復活であり、薬価を他国並みに引き下げることでアメリカ国民の負担軽減を狙うものです。

この発表を受け、アメリカ国内の製薬会社株は一時的に下落。一方、為替市場では円安が進み、ドル円は一時148.64円まで上昇。さらに米株式市場ではナスダック総合指数が1000ドル近く急騰するなど、トランプ氏の政策発表が広範な市場反応を引き起こしました。

こうした一連の動きは、トランプ大統領の経済的影響力が依然として非常に強力であること、そしてアメリカ経済の底力が依然健在であることを印象づけました。

 今回の大統領令の中心は、アメリカの薬価を他の先進国の中でも最低水準に合わせる「最恵国待遇」制度です。これにより、製薬会社は価格設定において他国の市場価格を無視できなくなり、大幅な価格調整を迫られることになります。

この制度は、トランプ氏が前回任期中の2020年にも一度提案した政策ですが、当時は訴訟などの法的ハードルにより施行を見送られていました。今回、再登板直後に再提起されたことで、過去にやり残した「公約」の本格的な履行が始まったとも言えるでしょう。

 この薬価政策により、PfizerやCVSなどの製薬・医療関連株は一時的に値を下げました。特に薬局給付管理会社(PBM)と呼ばれる中間業者には厳しい視線が向けられ、規制強化を警戒した売りも見られました。

しかし市場全体では、米中間の貿易関係改善に向けた「関税一時停止合意」や、インフレ鈍化への期待感もあり、トランプ発言の悪材料を大きく上回る好感が広がりました。ナスダック総合指数は約4.4%上昇し、テック株を中心に買いが集まりました。

 薬価引き下げ政策の発表と同日に、ドル円は一時148.64円まで上昇。円安が加速する形となりました。ただし、この為替変動の主因はトランプ大統領の薬価政策というよりも、米中の関税一時停止合意や、依然として続く日米の金利差によるものと見られています。

特に、アメリカ経済の強さが再確認されたことと、米連邦準備制度(FRB)がしばらく利下げを見送るとの観測が強まったことで、金利の高いドルが買われやすい状況が続いています。これに対して日本はマイナス金利政策からの脱却途上にあり、金利差が縮まる兆しは乏しいため、円は相対的に売られやすくなっているのが現状です。

 今回の薬価政策は、トランプ大統領が以前から主張していた内容を再び実行に移す第一歩であり、今後も再選前に掲げていた“未完の政策”が次々に動き出す可能性があります。

実際、今回のように一つの政策発表が市場全体を大きく動かすという現象は、トランプ氏の政治的影響力の強さを改めて印象づけました。これからの政権運営においても、突発的な政策変更や発表が、金融市場に対して即座にインパクトを与える展開が予想されます。

その一方で、アメリカ経済の地盤の強さ――豊富な雇用、活発な企業活動、AIやテック企業の成長力――も、今回の株価急騰が証明する形となりました。

 今回の出来事から学べるのは、トランプ政権が再び政権を握った今、過去の政策提案や発言がそのまま未来の現実として現れる可能性があるということです。

彼がかつて口にしていた公約や方針を振り返ることで、「次に市場がどう動くか」を事前に予測できる手がかりになるかもしれません。
そして、為替・株式市場ともに、トランプ氏の行動によって“地政学的リスク”とは別の形で大きく揺さぶられるリスクがあるという点にも注意が必要です。

 薬価引き下げという一つの政策が、製薬株の下落、円安の進行、そして米株式市場の急騰へと波及した今回の動き。これは、アメリカ経済が依然として世界を主導する存在であることを改めて示しました。

同時に、トランプ大統領の政策ひとつで市場が大きく動く現実があることも事実です。今後の展開を見据える上で、過去の政権時代の言動や提案を把握し、どのような影響が再来するかを冷静に分析しておくことが、投資家や経済ウォッチャーにとって重要な視点となります。

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