目次
給与から引かれている健康保険・厚生年金・雇用保険(+40〜64歳は介護保険)「毎月けっこう引かれるな…」で終わらせず、仕組みと計算の見方を知っておくと、手取りの理由も、いざという時の給付を確実に受ける手順も分かります。
さらに、文章だけでなく動画でも解説しています。映像と音声で分かりやすく学べますので、ぜひ記事とあわせてご覧ください。
社会保険とは?なぜ必要なの?
社会保険は、病気・出産・失業・老後など、生活上のリスクに備える公的な保険制度です。会社員・公務員などの給与所得者は加入が原則で、保険料を支払う代わりに、必要なとき給付を受けられる仕組みです。
社会保険の5本柱
- 健康保険(医療)
- 厚生年金保険(年金)
- 雇用保険(失業・育児等)
- 労災保険(業務上のけが・病気)
- 介護保険(40〜64歳は会社の保険料に上乗せ/65歳以上は市区町村で徴収)
この記事では、会社員が毎月の給与で実際に天引きされる3つ(健康保険・厚生年金・雇用保険)に絞って、計算の仕組み・労使負担・主な給付をやさしく解説します。
併せて、40〜64歳が対象になる介護保険料の位置づけも押さえます。
まず“しくみ”のキホン(ここだけは覚える)
- 計算の基礎は「標準報酬月額/標準賞与額」
実額の給与を等級に丸めた標準報酬月額と、ボーナスの標準賞与額で保険料を出します(端数のブレをなくすため)。 - 健康保険・厚生年金は“労使折半”
会社と従業員が半分ずつ負担。 - 雇用保険は“労使折半ではない”
労働者負担<事業主負担(事業主が多め)。 - 40〜64歳は「介護保険料」が健康保険料に上乗せ
給与明細では健康保険と合算表示されることが多いです。
標準報酬月額は原則、4〜6月の平均から毎年決まり(定時決定)、9月以降の1年に適用。昇給・降給時は随時改定があります。
健康保険(協会けんぽ・組合健保など)
ポイント(超要約)
- 医療費の自己負担は原則3割(年齢・所得で変動あり)
- 傷病手当金・出産手当金・高額療養費など現役世代向けの給付が手厚い
- **家族(被扶養者)**もカバー(保険料負担なし:要件あり)
- 保険料率は都道府県ごとに違う(協会けんぽ)/組合健保は独自
保険料率の見方
- 一般保険料率=基本保険料率+特定保険料率
例(協会けんぽ・東京都の一例):基本7.57%+特定2.41%=9.98%
※都道府県・年度で異なります。最新版は加入先の案内で必ず確認。
介護保険料(40〜64歳)
- 全国一律の料率(例:1.59%)が健康保険料に上乗せ
- 健康保険と同じく労使折半(給与明細では合算表示が多い)
計算方法(例)
- 標準報酬月額30万円、協会けんぽ料率9.98%のケース
30万円 × 9.98% = 29,940円(総額)
→ 従業員14,970円/会社14,970円 - 40〜64歳なら介護保険1.59%も別途計算して上乗せ(同様に折半)
主な給付
- 療養の給付(窓口3割負担)
- 高額療養費制度(自己負担額の上限あり)
- 傷病手当金:働けない病気・けがで最長1年6か月、標準報酬日額の2/3
- 出産手当金・出産育児一時金 など
※任意継続(退職後最長2年)という選択肢もあります。
厚生年金保険
ポイント(超要約)
- 老齢・障害・遺族の3本柱。老後だけでなく現役世代の備えにもなる。
- 保険料率18.3%(全国一律/労使折半=各9.15%)
- 国民年金より受給水準が高い(報酬比例部分があるため)
計算方法
- ①標準報酬月額 × 18.3%(総額)
- ②標準賞与額 × 18.3%(ボーナスごとに計算/上限1回150万円)
例(標準報酬月額30万円・賞与60万円)
- 月分:30万円 × 18.3% = 54,900円(労使各27,450円)
- 賞与:60万円 × 18.3% = 109,800円(労使各54,900円)
税との関係(覚えておくと得)
- 今払う保険料は「社会保険料控除」で所得税・住民税が軽くなる
- 将来受け取る老齢厚生年金は課税(雑所得)
※「公的年金等控除」あり。実際の課税額は年金額や他の所得次第。
雇用保険
ポイント(超要約)
- 失業時の基本手当、育児休業給付金、教育訓練給付など現役支援が充実
- 加入条件:概ね週20時間以上かつ31日以上の雇用見込み
- 労使折半ではない(事業主負担が大きい)
保険料率(一般の事業の例)
- 労働者負担:0.55%
- 事業主負担:0.90%(うち**0.35%**は「雇用保険二事業」=助成金や職業訓練等)
- 合計:1.45%
※建設・農林水産など業種で異なることがあります。
計算方法(賃金総額ベース)
- 月給30万円の例
労働者:30万円 × 0.55% = 1,650円
事業主:30万円 × 0.90% = 2,700円
主な給付
- 基本手当(失業保険)
- 育児休業給付金(育休開始〜6か月67%、以降50%※上限あり)
- 介護休業給付金
- 教育訓練給付金(一般・専門実践) など
注意:傷病手当金(健康保険)と基本手当(雇用保険)は原則同時受給不可。先にどちらを使うかで最適解が変わります(会社・ハローワークで確認を)。
介護保険料(40〜64歳の人向け/給与から天引き)
- 対象:40〜64歳かつ健康保険加入者
- 料率:全国一律(例:1.59%)を健康保険に上乗せ(労使折半)
- 給与明細:健康保険料の中に含まれて表示されることが多い
- 65歳からは第1号被保険者へ移行(市区町村が徴収)
使えるサービス(要介護認定が前提)
- 訪問介護、デイサービス、施設入所、ケアプラン作成 など
自己負担は1〜3割(所得に応じて変動)
3つの保険を一目で比較(ざっくり表)
保険 | 対象者 | 主な給付 | 料率の目安 | 負担の仕組み |
---|---|---|---|---|
健康保険 | 会社員と被扶養家族 | 医療3割負担・高額療養費・傷病手当金・出産手当金 | 協会けんぽの例:約10%+(40〜64歳は**介護1.59%**上乗せ) | 労使折半 |
厚生年金 | 会社員 | 老齢・障害・遺族年金 | 18.3%(全国一律) | 労使折半 |
雇用保険 | 一定の条件の労働者 | 失業・育児・介護・教育の給付 | 労働者0.55%/事業主0.90%(一般の事業例) | 折半ではない(事業主多め) |
数字は年度・加入先・地域で変わります。最新の料率は加入している健保組合・協会けんぽ、厚労省・日本年金機構、雇用保険の告示で必ず確認してください。
給与明細の“見る順番”チェックリスト(初心者向け)
- 総支給額(基本給+各手当+残業+賞与)
- 健康保険料(40〜64歳は介護保険が内包されることも)
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料(小さく見えるが重要)
- 課税対象額 → 所得税
- 住民税(前年の所得に基づき天引き)
- 手取り(可処分所得)=総支給 −(社会保険+税)
よくある誤解と注意点
- 「年収×料率」で出した金額はあくまで概算
実務は標準報酬月額・標準賞与額がベース。等級表で必ず確認。 - 被扶養の可否・加入要件と“税金の壁”は別問題
社会保険の加入(週20時間等)と、税の非課税ライン(例:123万円)は別制度。 - 退職時の扱い
健康保険は任意継続 or 国保、年金は国民年金に切替。 - 二重取りではない
健康保険・厚生年金は会社と折半、雇用保険は事業主が多め(助成・訓練財源のため)。
まとめ:社会保険は“コスト”ではなく“備え”
- 健康保険:現役世代のもしも(病気・出産・長期療養)に強い
- 厚生年金:老後・障害・遺族の生活を支える“土台”
- 雇用保険:失業・育児・介護・学び直しを支える
- 40〜64歳は介護保険料が健康保険に上乗せ
- 保険料は痛いが、いざという時の給付は強力。仕組みを理解して天引きを“投資”に変えるのがコツです。
次の一歩
- 自分の標準報酬月額の等級を確認
- 加入先(協会けんぽ/組合健保)の最新料率をチェック
- 給与明細の科目を毎月見て、ブレがないか把握
- ライフイベント前(出産・退職・育休)に受けられる給付を事前確認